家のデザインと性能の両立は諦めてはいけない
私は、エンドユーザーから家づくりの相談をされた時、こう尋ねます。
「デザイン、断熱性能、耐震性能、機能性を優先順位つけてみましょう」
1番が最優先で、4番は優先順位が低くなります。
もし、ユーザーが4番目にデザインを選んだとしたら、建築士としてどうするか。
私ならスッキリ、シンプルに美しいデザインでまとめます。
逆に1番にデザインを選んだなら、ユーザーの意向に添いながら、その想像の上をいくデザインで提案する。
建築士である以上、デザインは諦めてはいけません。
断熱性能、耐震性能、機能性、そしてコストも含めて、トータルで美しくまとめるのが、プロとして腕の見せ所です。
私は、住人として断熱性能にこだわりたいという思いがありました。
でも、一級建築士だからデザインを諦めるつもりは、毛頭ありません。
その結果、断熱性能を実現しながら、雑誌の取材を受ける住まいをデザインできました。
建築士として、適材適所の材料選定をすれば、デザインも性能も両立できます。
ちなみに、どれぐらいの断熱性能かは、こちらの記事をご確認下さい。
断熱性能=材料の厚さ/断熱材の性能
適材適所の材料選定をするために、断熱性能の基礎を知らなければなりません。
よく住宅会社のwebサイトに、こんな記載を見かけます。
「世界最高レベルのフェノールフォーム断熱材を使用」
我が家では、床に使いました。
おそらくこの文章表現の狙いは、
「世界最高レベルの断熱材を使っているから、断熱性能が高い」
というニュアンスを含めて伝えようとしています。
しかし正しい意味は、
「フェノールフォームは世界最高レベルの断熱材であって、その材料を使った住まい自体の断熱性能が高いかは別の話」
となります。
なぜなら、断熱性能(熱抵抗値)は以下の式で決まるからです。
断熱性能(熱抵抗値)=材料の厚み/断熱材の性能(熱伝導率)〔W/(m・K)〕
式の通り、断熱性能は、断熱材の性能と材料の厚みで決まる。
この断熱性能の基礎を知ることで、デザインとの両立のヒントになります。
断熱材の選び方
断熱性能が、材料の性能と厚みで決まるということは、何でもいいのでは?と思うかもしれません。
断熱材は、ザッとこれぐらい種類があります。
分類 | 材料名 | 熱伝導率 〔W/(m・K)〕 | 施工方法 |
無機質系 | グラスウール10K | 0.050 | 袋やマットを 敷き詰める |
無機質系 | グラスウール32K | 0.036 | 袋やマットを 敷き詰める |
無機質系 | ロックウール | 0.038 | 袋やマットを 敷き詰める |
木質繊維系 | セルロースファイバー | 0.040 | 不織布を張り、 ホースで吹き込む |
木質繊維系 | インシュレーションボード | 0.052 | ボード状の 断熱材をはめ込む |
発泡プラスチック系 | ビーズ法ポリスチレンフォーム(4号) | 0.041 | ボード状の 断熱材をはめ込む |
発泡プラスチック系 | 押出法ポリスチレンフォーム(1種) | 0.040 | ボード状の 断熱材をはめ込む |
発泡プラスチック系 | 硬質ウレタンフォーム(A種3) | 0.036 | 現場発泡の材料を 吹き付ける |
発泡プラスチック系 | 吹付硬質ウレタンフォーム | 0.026 | 現場発泡の材料を 吹き付ける |
発泡プラスチック系 | ポリエチレンフォーム(B) | 0.042 | ボード状の 断熱材をはめ込む |
発泡プラスチック系 | フェノールフォーム | 0.020 | ボード状の 断熱材をはめ込む |
天然素材 | 羊毛(ウールブレス) | 0.040 | 袋やマットを 敷き詰める |
材料の性能を表す「熱伝導率」は、数値が小さいほど高性能。
例えば、
・熱伝導率0.050のグラスウール10K、厚さ125mm
・熱伝導率0.040のセルロースファイバー、厚さ100mm
・熱伝導率0.020のフェノールフォーム、厚さ50mm
この3つは、同じ断熱性能になります。
そして、こんなにも種類があるので、断熱材の良し悪しは様々な観点で議論されます。
地球環境の観点から、発泡プラスチック系は産業廃棄物になるから悪い。
再利用可能な無機質系、木質繊維や天然素材は、地球に優しい。
気密施工の難易度の観点から、袋やマット、ボード状の断熱材は経験値や知識が必要。
現場発泡系であれば、経験値や知識がなくても一定水準の気密性能が発揮できる。
それぞれの特徴を知り、現場状況に合わせながら最善の選択をするのが、良き建築士です。
柱が見える真壁と高断熱の両立したデザイン
我が家の断熱施工は、床に熱伝導率0.020のフェノールフォーム、壁と天井に熱伝導率0.026の吹付硬質ウレタンフォームを採用しました。
床にフェノールフォームは一般的な選択ですが、壁と天井は少し珍しい選択です。
おそらく一般的には、熱伝導率0.036の硬質ウレタンフォーム(A種3)を採用するでしょう。
なぜなら、コストが安いから。
しかし、あえて割高な吹付硬質ウレタンフォームを採用したかというと、こんな空間を作りたかったからです。
Beforeのような、和の雰囲気が残るデザインです。
和の雰囲気のポイントは、柱が見えている真壁と呼ばれる構造。
ちなみに、柱が見えない構造は、大壁と呼ばれます。
真壁のデザインを採用した理由は、こちらの記事でご確認ください。
目指したいデザイン、断熱性能があり、リノベーションなので既存の条件もある。
整理すると、
・コストの関係で外壁は触らない
・柱を見せるデザインにする
・既存の筋交い(すじかい)が入っており、耐震補強でも筋交いを入れる
・断熱性能は、Heat20G2という高性能
となります。
つまり、外壁から柱までの105mm以下で、希望の断熱性能を実現したい。
なおかつ、筋交いが入っているので、ボード系断熱材は1箇所ずつ加工が必要で、施工精度が安定せず、大工さんの負担も増える課題がある。
これらを総合的に判断すると、材料の性能が高く、施工精度も安定している吹付硬質ウレタンフォームとなります。
写真で見ると、ピンク色の部分が吹付硬質ウレタンフォームです。
このように条件を整理し、実現したいデザインに対して妥協せず、適材適所の材料選定が大切です。
その分、コストは高くつきました。
でも、総工事費で考えれば予算内なので、後悔はありません。
デザインに妥協せず、性能も高め、総工事費でしっかりとコストコントロールするのが、建築士としての腕の見せ所。
条件や要望は、それぞれの価値観によって異なるため、正しい知識を得て、最善の選択ができるようにしておきましょう。
今回の記事からの学び
- 住まいのデザインは大切で、どんな理由でも諦めてはいけない
- 断熱性能、耐震性能、機能性、コストをトータルで美しくまとめるのがプロのデザイン
- 断熱性能は、断熱材の性能とその厚みで決まる
- 材料の性能が高いことだけをアピールしている情報には要注意
- 断熱材の種類はたくさんあり、環境保全や施工性などの観点で議論される
- 現場の条件、デザインの条件を整理し、適材適所断熱材を選ぶ
この記事を書いている私、鶴見哲也の自己紹介は、こちらの記事からご覧ください。
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