家庭用エアコンを畳数表示で選んではいけない
エアコンを選ぶとき、カタログのどこを見ますか?
親切に「◯畳程度」と書いてあるので、それを見て部屋の広さに合わせて購入することが多いでしょう。
しかし、エアコンの畳数表示は、1964年に制定された基準のままって知っていますか。
1964年の住まいは、断熱も気密も全く考えられていない住まいです。
つまり、高気密高断熱で建てられている現代の住まいに、そのまま畳数表示を目安にエアコンを選ぶと、過大性能になります。
適正な能力のエアコンは断熱性能と暖房負荷で決まる
エアコンを選ぶ基準には、断熱性能が関わってきます。
断熱の無い住まいが基準の畳数表示のため、断熱した場合は少ないエネルギーで冷暖房ができることがイメージできるでしょう。
もちろん、断熱のレベルによってエアコンの効きは変わります。
イメージとしては、概ね表のような感じです。
基準 | 次世代省エネ基準 (性能等級4) | Heat20 G1 | Heat20 G2 | Heat20 G3 |
冬の最低の 体感温度 | 8度 | 10度 | 13度 | 15度 |
Q値 / UA値 | 2.70 / 0.87 | 1.90 / 0.56 | 1.60 / 0.46 | 1.07 / 0.26 |
エアコンの効果 | 頭と足元に温度差 窓も結露 | 個別空調が効率的 全館空調は非効率 | エアコン1台で 全館空調が可能 | 最小機器で家中 空調が効く |
対応できる企業 | どこでも可 ローコストレベル | どこでも可 一般的なレベル | 地域トップの 性能特化企業 | 全国トップの 性能特化企業 |
ここで注目するのは、熱損失係数Q値です。
そしてもう一つ、大切なのが気密性能を表すC値。
この2つが分かれば、算定式でエアコンの容量がわかります。
ちなみに、気密性能の大切さはこちらの記事でご確認下さい。
エアコンの容量は、冷房負荷ではなく暖房負荷で決まります。
オール電化で暮らしたことがある方は、冷房より暖房の時期の方が電気料金が高くなり、負荷が大きいことがわかるでしょう。
そして、Q値とC値がわかれば、必要暖房負荷が求められます。
建築家の松尾和也氏考案の算定式です。
必要暖房負荷=(Q値×C値/10)×その部屋の面積×(設定室温−その地域の年間最低気温)
この式で出た値を、カタログの暖房能力のKW数と見比べて決めます。
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畳数表示でエアコンを選ぶと電気料金が高くなる理由
それでは、実際に断熱レベル別で、必要暖房負荷を算出してみましょう。
Q値は地域ごとに変わるので、私が住む6地域で算出しました。
また、C値は施工精度に関係するので、厳密には建物ごとに変わるため、一般的な数値で計算します。
気温については、設定室温24度、外気0度と仮定。
まとめると、以下の表のようになります。
Q値 | C値 | 6畳 9.9m2 | 8畳 13.2m2 | 10畳 16.6m2 | 12畳 19.9m2 | 14畳 23.2m2 | 18畳 29.8m2 | |
無断熱住宅(W) | 6.5 | 22.4 | 2077 | 2769 | 3482 | 4174 | 4866 | 6251 |
次世代省エネ基準(W) (ローコストレベル) | 2.7 | 1 | 665 | 887 | 1116 | 1337 | 1559 | 2003 |
Heat20G1(W) (一般的なレベル) | 1.9 | 1 | 475 | 634 | 797 | 955 | 1114 | 1430 |
Heat20G2(W) (性能特化企業レベル) | 1.6 | 1 | 404 | 539 | 677 | 812 | 947 | 1216 |
暖房定格能力(W) | 2200 | 2800 | 3600 | 4200 | 5000 | 6700 | ||
暖房最大能力(W) | 4600 | 4700 | 5100 | 5700 | 7700 | 9400 |
表から、定格能力(十分に能力を発揮する値)と各部屋の暖房負荷を比較していきます。
まずは、無断熱住宅と定格能力の値が、限りなく近いことがわかります。
やはり畳数表示の基準は、無断熱住宅だったんです。
一方で、ローコストレベルで18畳の広さを暖房するために、2003Wのエネルギーが必要です。
定格能力を見ると、6畳用のエアコン2200Wで十分なことがわかります。
ただし、定格能力よりも少し余裕を持った方が効率よく運転するので、この場合は8畳用を選ぶと良いでしょう。
ちなみに、我が家はHeat20G2(性能特化企業レベル)の断熱性能まで、断熱リフォームしました。
コスト削減の観点から、暮らすエリアだけ断熱したため、気密性能は低いはずです。
気密試験を行なっていないのでわかりませんが、仮にC値=5と仮定し、35畳(58m2)の空間で暖房能力を算出してみます。
暖房能力=(1.6×5/10)×58×24=2923W
計算上は、8畳用のエアコン2800Wでは少し足りないので、10畳用3600Wで十分です。
しかし、実際に採用したのは14畳用。
なぜなら、この計算を用いてエアコンのサイズを小さくした経験が、我が家で初めてだったからです。
少し自信がなかったので、能力を小さくしきれませんでした。
なぜ過大性能のエアコンを購入してしまうのか
ここまで算定式があって、なぜ過大性能のエアコンの購入を勧められてしまうのか。
3つの理由が考えられます。
1.販売側の知識不足
2.購入側が家のQ値やC値を知らない
3.暖かい、寒いの体感は人によって異なる
住宅会社の工事の中でエアコンを取り付けるのであれば、販売側の知識不足は少し問題かもしれません。
しかし、家電量販店の店員さんの場合は、仕方がないでしょう。
家電量販店の店員さんは、家電のプロであって住宅のプロではないからです。
購入する側が家のQ値やC値を知っていれば、適正なエアコンが選べるかもしれませんが、これも専門性の高いことなので、現実的ではないでしょう。
そして、暖かいや寒いは体感的なことなので、人によってバラバラです。
暑がりもいれば、寒がりもいる。
結局のところ、畳数表示でエアコンをおすすめしておけばハズレではない。
また、「メーカーのカタログに書いてあるから」と、理由が説明できるのも都合がいい。
だから、多くの人が知らず知らずに、過大性能のエアコン購入に至るのです。
適正サイズならエアコンの買い替え費用もお得に
一般的にエアコンは、10年に1度ぐらいに買い換えが目安なります。
当然ですが、エアコンは性能が高い方と、機器の価格も高くなる。
そのため、過大性能を選んでしまうと、機器の購入費用が高くなり、無駄遣いになります。
例えば、私が選んだダイキンのエアコンCシリーズ。
同等シリーズの後継機で、価格.comの最低価格で金額を確認してみます。
(2020年3月4日現在)
6畳用 | 8畳用 | 10畳用 | 12畳用 | 14畳用 | 18畳用 | 20畳用 | 23畳用 | |
最低価格 | ¥80,073 | ¥108,756 | ¥121,110 | ¥134,580 | ¥153,800 | ¥173,410 | ¥204,010 | ¥221,561 |
35畳を畳数表示で選んだ場合、23畳用と12畳用の2台で¥356,141となります。
しかし、私が購入したのは、14畳用を1台で¥153,800。
差額は、¥202,341です。
これをローンを返済しきる30年で考えると、3倍の¥607,023もの差になります。
知っているかどうかで、ここまで金額が変わるので、適正なエアコン選びがオススメです。
わからないときは、断熱について詳しい住宅会社の担当者に相談してみましょう。
今回の記事からの学び
- エアコンの畳数表示は、無断熱の住宅を基準にしている
- 適正な能力のエアコンは、断熱性能と気密性能によって決まる
- 必要暖房負荷の算定式を利用し、定格暖房能力と比較することで、適正なエアコンが選べる
必要暖房負荷
=(Q値×C値/10)×その部屋の面積×(設定室温−その地域の年間最低気温) - ローコストレベルの断熱でも、18畳の部屋を6〜8畳用のエアコンで十分
- 適正能力のエアコンを選べば、購入費用で大きな差がでる
この記事を書いている私、鶴見哲也の自己紹介は、こちらの記事からご覧ください。
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