家のデザインと性能を両立させる断熱材選び

家のデザインと性能を両立させる断熱材選び断熱・気密
見出し
  • 住まいのデザインは大切で、どんな理由でも諦めてはいけない
  • 断熱性能、耐震性能、機能性、コストをトータルで美しくまとめるのがプロのデザイン
  • 断熱性能は、断熱材の性能とその厚みで決まる
  • 材料の性能が高いことだけをアピールしている情報には要注意
  • 断熱材の種類はたくさんあり、環境保全や施工性などの観点で議論される
  • 現場の条件、デザインの条件を整理し、適材適所断熱材を選ぶ

家のデザインと性能の両立は諦めてはいけない

私は、エンドユーザーから家づくりの相談をされた時、こう尋ねます。

「デザイン、断熱性能、耐震性能、機能性を優先順位つけてみましょう」

1番が最優先で、4番は優先順位が低くなります。
もし、ユーザーが4番目にデザインを選んだとしたら、建築士としてどうするか。
私ならスッキリ、シンプルに美しいデザインでまとめます。
逆に1番にデザインを選んだなら、ユーザーの意向に添いながら、その想像の上をいくデザインで提案する。

建築士である以上、デザインは諦めてはいけません。
断熱性能、耐震性能、機能性、そしてコストも含めて、トータルで美しくまとめるのが、プロとして腕の見せ所です。

SUUMOリフォーム2020年3月号
SUUMOリフォーム2020年3月号に掲載されました

私は、住人として断熱性能にこだわりたいという思いがありました。
でも、一級建築士だからデザインを諦めるつもりは、毛頭ありません。
その結果、断熱性能を実現しながら、雑誌の取材を受ける住まいをデザインできました。
建築士として、適材適所の材料選定をすれば、デザインも性能も両立できます。

ちなみに、どれぐらいの断熱性能かは、こちらの記事をご確認下さい。

断熱性能=材料の厚さ/断熱材の性能

適材適所の材料選定をするために、断熱性能の基礎を知らなければなりません。
よく住宅会社のwebサイトに、こんな記載を見かけます。

「世界最高レベルのフェノールフォーム断熱材を使用」

フェノールフォームは、硬い発泡スチロールのような材料。
我が家では、床に使いました。

おそらくこの文章表現の狙いは、
「世界最高レベルの断熱材を使っているから、断熱性能が高い」
というニュアンスを含めて伝えようとしています。

しかし正しい意味は、
「フェノールフォームは世界最高レベルの断熱材であって、その材料を使った住まい自体の断熱性能が高いかは別の話」
となります。
なぜなら、断熱性能(熱抵抗値)は以下の式で決まるからです。

断熱性能(熱抵抗値)=材料の厚み/断熱材の性能(熱伝導率)〔W/(m・K)〕

式の通り、断熱性能は、断熱材の性能と材料の厚みで決まる。
この断熱性能の基礎を知ることで、デザインとの両立のヒントになります。

断熱材の選び方

断熱性能が、材料の性能と厚みで決まるということは、何でもいいのでは?と思うかもしれません。
断熱材は、ザッとこれぐらい種類があります。

分類材料名熱伝導率
〔W/(m・K)〕
施工方法
無機質系グラスウール10K0.050袋やマットを
敷き詰める
無機質系グラスウール32K0.036袋やマットを
敷き詰める
無機質系ロックウール0.038袋やマットを
敷き詰める
木質繊維系セルロースファイバー0.040不織布を張り、
ホースで吹き込む
木質繊維系インシュレーションボード0.052ボード状の
断熱材をはめ込む
発泡プラスチック系ビーズ法ポリスチレンフォーム(4号)0.041ボード状の
断熱材をはめ込む
発泡プラスチック系押出法ポリスチレンフォーム(1種)0.040ボード状の
断熱材をはめ込む
発泡プラスチック系硬質ウレタンフォーム(A種3)0.036現場発泡の材料を
吹き付ける
発泡プラスチック系吹付硬質ウレタンフォーム0.026現場発泡の材料を
吹き付ける
発泡プラスチック系ポリエチレンフォーム(B)0.042ボード状の
断熱材をはめ込む
発泡プラスチック系フェノールフォーム0.020ボード状の
断熱材をはめ込む
天然素材羊毛(ウールブレス)0.040袋やマットを
敷き詰める

材料の性能を表す「熱伝導率」は、数値が小さいほど高性能
例えば、
・熱伝導率0.050のグラスウール10K、厚さ125mm
・熱伝導率0.040のセルロースファイバー、厚さ100mm
・熱伝導率0.020のフェノールフォーム、厚さ50mm
この3つは、同じ断熱性能になります。
そして、こんなにも種類があるので、断熱材の良し悪しは様々な観点で議論されます。

地球環境の観点から、発泡プラスチック系は産業廃棄物になるから悪い。
再利用可能な無機質系、木質繊維や天然素材は、地球に優しい。

気密施工の難易度の観点から、袋やマット、ボード状の断熱材は経験値や知識が必要。
現場発泡系であれば、経験値や知識がなくても一定水準の気密性能が発揮できる。

それぞれの特徴を知り、現場状況に合わせながら最善の選択をするのが、良き建築士です。

柱が見える真壁と高断熱の両立したデザイン

我が家の断熱施工は、床に熱伝導率0.020のフェノールフォーム壁と天井に熱伝導率0.026の吹付硬質ウレタンフォームを採用しました。
床にフェノールフォームは一般的な選択ですが、壁と天井は少し珍しい選択です。
おそらく一般的には、熱伝導率0.036の硬質ウレタンフォーム(A種3)を採用するでしょう。
なぜなら、コストが安いから。
しかし、あえて割高な吹付硬質ウレタンフォームを採用したかというと、こんな空間を作りたかったからです。

2部屋を1部屋につなげた一戸建てリノベーション

Beforeのような、和の雰囲気が残るデザインです。
和の雰囲気のポイントは、柱が見えている真壁と呼ばれる構造。
ちなみに、柱が見えない構造は、大壁と呼ばれます。
真壁のデザインを採用した理由は、こちらの記事でご確認ください。

目指したいデザイン、断熱性能があり、リノベーションなので既存の条件もある。
整理すると、
・コストの関係で外壁は触らない
・柱を見せるデザインにする
・既存の筋交い(すじかい)が入っており、耐震補強でも筋交いを入れる
・断熱性能は、Heat20G2という高性能
となります。

つまり、外壁から柱までの105mm以下で、希望の断熱性能を実現したい。
なおかつ、筋交いが入っているので、ボード系断熱材は1箇所ずつ加工が必要で、施工精度が安定せず、大工さんの負担も増える課題がある。
これらを総合的に判断すると、材料の性能が高く、施工精度も安定している吹付硬質ウレタンフォームとなります。
写真で見ると、ピンク色の部分が吹付硬質ウレタンフォームです。

アクアフォームNEOによる吹付け断熱

このように条件を整理し、実現したいデザインに対して妥協せず、適材適所の材料選定が大切です。
その分、コストは高くつきました。
でも、総工事費で考えれば予算内なので、後悔はありません。
デザインに妥協せず、性能も高め、総工事費でしっかりとコストコントロールするのが、建築士としての腕の見せ所。
条件や要望は、それぞれの価値観によって異なるため、正しい知識を得て、最善の選択ができるようにしておきましょう。

今回の記事からの学び

  • 住まいのデザインは大切で、どんな理由でも諦めてはいけない
  • 断熱性能、耐震性能、機能性、コストをトータルで美しくまとめるのがプロのデザイン
  • 断熱性能は、断熱材の性能とその厚みで決まる
  • 材料の性能が高いことだけをアピールしている情報には要注意
  • 断熱材の種類はたくさんあり、環境保全や施工性などの観点で議論される
  • 現場の条件、デザインの条件を整理し、適材適所断熱材を選ぶ

この記事を書いている私、鶴見哲也の自己紹介は、こちらの記事からご覧ください。
TwitterInstagramのフォローもよろしくお願いします。