間取りで気をつけることや、リノベーションらしいデザインのポイントがわかりました。
他にリノベーションの設計で、気を付けなければいけないことってありますか?
どうしても設計となると、間取りやデザインを気にされる方が多いです。
しかし、本当に大切なのは性能。
その中で、体感しやすいのが断熱性能です。
今回、断熱について解説します。
家づくりの設計でデザインよりも大切なもの
これまでリノベーションの設計について、いくつか解説してきました。
構造に関わる間取り変更は、構造的な欠陥を生む。
または、欠陥を補強するため、補強費用でコストアップになるので避けるべきです。
せっかく古民家をリノベーションするので、そのおしゃれな雰囲気を活かすコツがあります。
残すとことは、はっきり残すのがポイント。
どのような方法か気になる方は、下記の記事をチェックして下さい。
これらの記事のように、家づくりや設計となると、どうしても間取りやデザインの話に注目されがちです。
しかし、リノベーションで最も大切なのは、性能向上にあります。
耐震性能と断熱性能の2つがありますが、日頃効果を感じられるのが断熱性能の向上です。
ちなみに、断熱の話を進めるにあたって、この2冊の本がとても参考になりました。
寒さは不健康のもと
まずは、断熱性能が低いことによる健康被害について考えてみましょう。
「ヒートショック」という言葉を耳にしたことはありますか。
「ヒートショック」とは、急激な温度変化で体がダメージを受けることです。
例えば、暖かいリビングから寒い脱衣所で服を脱ぎ、熱いお風呂に入り、また寒い脱衣所へ行く。
この過程の中で、寒いと血管が縮み血圧が上がる。
熱いと血管が広がり血圧が下がる。
この血圧の変化が心臓に負荷をかけ、心筋梗塞や脳卒中を引き起こす場合があります。
サッシメーカーのYKK AP株式会社の調査によると、
・交通事故による死亡者数が4,611人
・入浴中の死亡者数が約17,000人
転倒事故も含まれていると思いますが、交通事故よりもヒートショックのリスクが高いことが、この数字からわかります。
暑さも不健康のもと
寒い冬のヒートショック以上に、近年急激に増えているのが、暑過ぎる夏の熱中症。
よく冷房が苦手な高齢者が、夏場に熱中症で緊急搬送されるニュースが報道されています。
2018年以前は50,000人前後が救急搬送されている。
2018年は飛び抜けて救急搬送者数が多く、92,000人。
2019年はそれより減ったものの、66,000人とそれ以前よりも高い水準です。
地球温暖化の影響かは定かではありませんが、暑さも脅威になっていることは間違いありません。
快適な暮らしに断熱は必須
寒さはヒートショック、暑さは熱中症と、冬も夏も温熱環境が健康被害に深刻な影響を与えています。
そこで必要なのが「断熱」です。
断熱の効果は、同じ温度を保つ力のことを意味します。
断熱については、ペットボトルと魔法瓶の水筒をイメージするとわかりやすいです。
暑い夏、ペットボトル飲料は、すぐ常温になってしまいます。
魔法瓶の水筒であれば、長時間冷たいまま水分補給が可能です。
ペットボトルは、冷たい状態を保てないので、断熱性能が低い。
魔法瓶の水筒は、長時間冷たい状態を保てるので、断熱性能が高いとなります。
これは、冬場のホットドリンクでも同じです。
これを、住宅に置き換えて考えて見ます。
断熱性能が低い住宅は、ペットボトル飲料。
冷房で部屋を冷やしても、電源を切るとすぐに暑くなってしまいます。
冷えた涼しい状態を維持しようとしても、外気の影響を強く受けるので、多くのエネルギーをかけなければいけません。
一方で、断熱性能が高い住宅は、魔法瓶です。
冷房で部屋を冷やし電源を切っても、部屋は長時間冷えた状態を保ちます。
外気の影響も受けにくいので、冷房を連続運転しても、少ないエネルギーで済む。
これを暖房に置き換えても同じです。
つまり、断熱性能が高い魔法瓶のような住宅は、快適で省エネルギーな暮らしを可能にします。
断熱リフォームをするぐらいの規模感の工事で必要なコストは、概ね1000万円以上です。
高気密高断熱にはレベルがある
断熱が大切と聞くと、「高気密高断熱だから安心」と思い描くはず。
でも、同じ高気密高断熱でもレベルがあり、安心しきれないものもあります。
断熱性能は、Q値(熱損失係数)またはUA値(外皮平均熱貫流率)で表される。
しかし、一般ユーザーにとってはわかりにくい。
そのため、冬場の最低体感温度が何度になるのかを目安に見ると、少しはわかりやすくなります。
主要な基準を一覧表で確認してみましょう。(Q値、UA値は6地域の数値を記載)
各基準の詳細は解説をご覧ください。
基準 | 次世代省エネ基準 (性能等級4) | Heat20 G1 | Heat20 G2 | Heat20 G3 |
冬の最低の 体感温度 | 8度 | 10度 | 13度 | 15度 |
Q値 / UA値 | 2.70 / 0.87 | 1.90 / 0.56 | 1.60 / 0.46 | 1.07 / 0.26 |
エアコンの効果 | 頭と足元に温度差 窓も結露 | 個別空調が効率的 全館空調は非効率 | エアコン1台で 全館空調が可能 | 最小機器で家中 空調が効く |
対応できる企業 | どこでも可 ローコストレベル | どこでも可 一般的なレベル | 地域トップの 性能特化企業 | 全国トップの 性能特化企業 |
次世代省エネ基準:冬場の最低体感温度が8度の基準
Q値=2.7
UA値=0.87
次世代省エネ基準は、2020年に政府が初めて断熱性能を義務化しようとしていた基準。
残念ながら、業界の認識やコスト吸収できる技術が追いついていないといった理由で延期になりました。
私が住む北陸の平野部だと、冬場の平均気温が4度程度です。
そんな環境から家に帰ってきて、8度ではそんなに暖かいと感じられません。
冷暖房をかけても、部屋の大きさによっては、頭と足元で温度差を感じてしまいます。
窓も結露するでしょう。
また、住宅の品質確保の促進等に関する法律(通称:品確法)において、住宅性能表示制度というものがあります。
性能表示における最高等級4が、この次世代省エネ基準です。
性能表示における最高等級が、政府が最低限の義務にしようとしていた基準となっており、なんだか矛盾を感じてしまいます。
最高等級は、最低基準予定だったということだけは覚えておいて、住宅会社の広告を見てください。
Heat20 G1:冬場の最低体感温度が10度の基準
Q値=1.9
UA値=0.56
外気4度に対して、家に入れば10度と初春ぐらいの感じです。
この基準であれば、部屋ごとに個別冷暖房することで、頭から足元まで温度差が少なく快適な環境ができます。
窓の結露も発生しにくいです。
最近流行りの全館空調(エアコン1台で家中を空調する方法)を導入するには、少し物足りないでしょう。
個別空調よりは、光熱費が高くなるのでおすすめできません。
また、太陽光発電パネルを載せたZEH(ゼッチ)と呼ばれる「ネットゼロエネルギーハウス」という基準に近い。
ZEHであれば、UA値0.6以下が条件です。
ZEHは、暮らしの中で使うエネルギーを、太陽光発電で創るエネルギーでまかない、エネルギー消費をプラスマイナスゼロにしようという性能。
政府が補助金を出しながら、推進しています。
ZEHの住環境的には、Heat20G1と同等程度で、個別空調であれば効率が良く、全館空調では省エネではありません。
Heat20 G2:冬場の最低体感温度が13度の基準
Q値=1.6
UA値=0.46
外気4度に対して、家に入れば13度と春や秋ぐらいの感じです。
この基準であれば、全館空調でも効率が良く、光熱費も安く冷暖房ができます。
もちろん頭から足元までの温度差が無く、結露も発生しにくいです。
性能を上げるにつれて、当然コストは高くなる。
しかし、住宅ローンを完済する30年以上の期間住む期間で考えると、現状最もコストパフォーマンスが高い基準と言われています。
高い技術や知識が必要なので、各都道府県で有数の性能特化の工務店、住宅会社でしか対応できないでしょう。
我が家は、この基準を目指して断熱性能を高めました。
Heat20 G3:冬場の最低体感温度が15度の基準
Q値=1.07
UA値=0.26
2019年に発表された新基準で、ドイツのパッシブハウスを目指した基準となっています。
パッシブハウスとは、高い断熱性能、気密性能で徹底的に熱を逃さない省エネ住宅のことです。
一般的な住宅(32坪程度)を、6畳用のエアコン1台で冷暖房できます。
現状、ここまで性能を上げると工事費が高くなった分を、暮らしていく中での光熱費の安さで回収しきることは難しいでしょう。
また、ここまでの性能は、全国有数の性能特化の工務店、住宅会社でしか実現できません。
コスト面、技術面で誰でもこの性能にできる訳ではないのが現状です。
Heat20 G2基準を目指した理由
我が家を断熱リノベーションするにあたって、私はHeat20 G2基準を目指しました。
理由は、妻が個人事業主で、在宅ワークをすることが多かったからです。
在宅ワークをするということは、一日のほとんどの時間エアコンが点いた生活になります。
中途半端な性能では、毎月の光熱費が高くなる。
それよりも、初期投資がかかったとしても、G2基準で夏と冬は24時間エアコン運転しっぱなしで快適かつ光熱費がお得な方がいいと考えました。
検討は、シミュレーションソフトを用いて、暮らし始めてからは実測値を記録。
シミュレーション通りに、初期投資効果が発揮されているか確認しました。
2019年 | シミュレーション | 実測値 |
1月 | ¥14,827 | ¥16,342 |
2月 | ¥13,479 | ¥13,574 |
3月 | ¥11,470 | ¥11,361 |
4月 | ¥ 8,278 | ¥9,515 |
5月 | ¥7,099 | ¥6,913 |
6月 | ¥7,249 | ¥5,916 |
7月 | ¥11,236 | ¥8,546 |
8月 | ¥13,556 | ¥9,803 |
9月 | ¥8,348 | ¥7,657 |
10月 | ¥6,947 | ¥6,381 |
11月 | ¥8,509 | ¥8,631 |
12月 | ¥12,329 | ¥11,869 |
合計 | ¥123,327 | ¥116,508 |
その結果、一年間暮らしてオール電化の電気料金を記録したところ、11万6508円で済みました。
快適なため、アパート暮らしだった頃に比べて、風邪などの体調不良が減り、冬に羽織る服も一枚減り、医療費と衣類費用の削減にもなったのです。
我が家の場合、計算上は22年暮らせば初期投資が回収可能。
長く暮らせばお得なため、「断熱性能に初期投資してよかった」と強く感じています。
今回の記事からの学び
- リノベーションの設計で大切なのは、デザインよりも性能
- 寒さは、ヒートショックのリスクがある
- ヒートショックは、交通事故よりも死亡リスクが高い
- 暑さは、熱中症のリスクがあり、近年増加傾向にある
- 快適で、健康な暮らしには断熱が必要不可欠
- 高気密高断熱にはレベルがある
- 最もコストパフォーマンスが高い性能はHeat20 G2
この記事を書いている私、鶴見哲也の自己紹介は、こちらの記事からご覧ください。
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