住宅設計支援ツール建もの燃費ナビの精度

住宅設計支援ツール建もの燃費ナビの精度断熱・気密
この記事から学べること
  • 車同様、長く暮らす住まいは、初期費用と維持費(燃費)での検討が大切
  • 断熱性能を高めると工事費は高くなるが、維持費にあたる光熱費は安くなる
  • 適切な断熱性能を発揮するためには、気密性能が必要不可欠
  • 建ものの燃費計算は、プロにお願いしないとできない
  • 建もの燃費ナビのシミュレーション精度は高い(誤差5.5%)
  • 冷暖房の運用を間違えると、シミュレーション通りにいかない場合がある
  • エアコンの設定温度があ1度変われば、消費エネルギーは10%変わる
  • 直射日光の影響を考えた屋根や窓の設計が重要

住宅設計でなぜ建ものの燃費を考えるのか

車を買うときは燃費を考える

あなたがもし10年間乗る車を買う際、どんな点を見て決めますか。
おそらく、この3点を天秤にかけて考えるでしょう。

  • 本体価格
  • デザイン
  • 燃費

デザインはどちらも好みのA社とB社。
燃費は倍ほど変わるので、A社を選べば月にガソリン代が1万円、B社を選べば2万円。
本体価格は、A社250万円、B社180万円。
さて、どちらの車が10年間乗るのにお得でしょうか。

答えは簡単、A社ですね。
初期費用である本体価格と、維持費である燃費の総額で考えれば一目瞭然。

A社=250万円+1万円×12ヶ月×10=370万円
B社=180万円+2万円×12ヶ月×10=420万円

10年乗れば、A社の方が50万円安くなります。
さて、車よりも長く使う住まいはどうでしょうか。

住宅の燃費とは

車での考え方を住宅に置き換えてみましょう。
初期費用は建設工事費、維持費である燃費は光熱費に該当します。
断熱性能を高めると工事費は上がり、光熱費は下がる
下の表は、我が家を計画するに当たって、断熱性能別に断熱工事費と光熱費を比較したものです。
右側に行くに連れて断熱性能が高くなります。
中段にある工事費の差と、光熱費の差に注目して見てみましょう。

ローコスト
住宅レベル
工務店
平均レベル
断熱特化
工務店レベル
断熱性能次世代
省エネ基準
ZEHHeat20G2
UA値0.870.600.46
冬場の最低の
体感温度
8℃9〜10℃13℃
工事費75万円110万円185万円
工事費の差±0+35万円+110万円
年間光熱費17.6万円13.9万円12.5万円
年間光熱費の差±0-3.7万円-5.1万円
10年での差37.0万円51.0万円
15年での差55.5万円76.5万円
20年での差74.0万円102.0万円
25年での差92.5万円127.5万円

ローコスト住宅レベルと、断熱特化工務店レベルでは、工事費が110万円違います。
光熱費の差は、年間51,000円。
計算上は、22年間住めば工事費の差が回収可能で、それ以降はお得になることが一目瞭然です。
これが、建ものの燃費を考える意味。
車も住まいも長く使うものは、初期費用と維持費のセットで考えることでお得になります。

適切な断熱性能には気密性能も大切

高気密高断熱とよく耳にするように、高い断熱と高い気密はセットです。
大げさに聞こえるかもしれませんが、気密性能が低いと窓を開けっ放しで冷暖房かけている暮らしになります。
そんな環境は、いつまで経っても快適にならないし、冷暖房機器はずっとフルパワー運転で、光熱費も高くなる。
そうならないために、しっかりと工事現場をチェックしなければなりません。
主なチェックポイントは、こちらの記事を参考にしてください。

どのように燃費計算をするのか

住宅における燃費計算の必要性が、少しは伝わったでしょうか。
では、燃費計算をしてみましょう。
と言っても、実際はプロに任せなければできません。
なぜなら、シミュレーションソフト自体が有料で、入力項目も複雑だからです。
このような項目を入力し計算します。

  • 建物の間取り、形、高さ
  • 方位
  • 近隣の建物の高さ
  • 窓の大きさ、位置、性能
  • 床、壁、屋根の断熱性能
  • 使用する冷暖房機器の性能

これら以外にも、細かい入力が必要です。
私は、株式会社シーピーユーの建もの燃費ナビというソフトでシミュレーションしました。
計算すると、こんな風にわかりやすいシミュレーション結果が出てきます。

建物燃費ナビによる光熱費シミュレーション

さて、シミュレーションはできたけど、この精度って気になりませんか。
本当にあっているの?
シミュレーションを信じて、工事費アップを受け入れたけど、本当に光熱費で回収できるのか?
正直言って、私も疑っていました。

建もの燃費ナビの計算精度

光熱費シミュレーションと実績値を比較してみた

精度確認のためには、実際シミュレーション通りの家づくりをし、その結果を記録していくしかありません。
そこで、我が家のリノベーションで、シミュレーションによる電気料金と、実際に請求がきた電気料金を比較してみました。
その結果が、こちらのグラフ。

光熱費シミュレーションのグラフ

電気料金となっているのは、冷暖房はエアコンのみ、調理はIH、給湯はエコキュートという、いわゆるオール電化住宅だからです。

シミュレーションとの誤差5.5%

この記録をしている1年間、電気料金の通知が楽しみでした。
年間通して、シミュレーションでは123,327円に対し、実測値は116,508円
シミュレーションよりも、6,819円安く生活することができました。
誤差にすると5.5%なので、許容範囲でしょう。
しかし、細かく見ると一部の月で、シミュレーションよりも高くなった月がありました。
それがなぜか考察してみましょう。

運用方法を間違えた1月

暮らし始めた1月。
シミュレーションでは14,827円に対し、実測値は16,342円と10%程高くなりました。
これは明らかにエアコンの運用ミスです。

妻が在宅ワークで、電気料金の高い昼間もエアコンを運転しっぱなし。
乾燥が気になるという理由で、夜間は消していました。
一見この運転時間の長さが原因と思いますが、そこではありません。
運用ミスの原因は、設定温度の高さです。
断熱性能の低いアパート暮らしに慣れ、エアコンを24度で運転していました。
エアコンは、設定温度1度変われば、消費エネルギーが10%変わると言われています。

設定温度に問題があると仮説を立て、2月は22度の運転に切り替えました。
すると、ほぼ誤差のない結果に。

また、今年の1月は22度、風量自動設定で24時間運転してみました。
結果は、14,291円とシミュレーション結果と誤差−536円
やはり運転時間ではなく、設定温度に問題があったということが、より明確になりました。

例年よりも寒かった4月

2019年の4月は、とにかく寒かった。
日毎の履歴平均気温を下回った日が、22日もあったのです。
そのおかげで桜の花が散りにくく、趣味の写真での撮影を楽しめた反面、電気料金は15%程高め。
外気が低いと、エアコンの使用頻度が高くなるので仕方がありません。

なぜか安かった夏の冷房費用

冷房を使う6月から9月の期間、明確な理由はわかりませんが、ずっと安く済みました。
特に我慢した訳でもなければ、冷夏という訳でもありません。
考えられるのは、南側の大きな窓に庇がついていることです。

小さな庇ですが、夏の高い位置からの直射日光を遮ってくれました。
直射日光は大きな熱エネルギーを持っているのため、それが室内に入ってくるか否かで、冷房の効き目は大きく変わります。
ただ断熱性能を高めるだけではなく、直射日光をどう扱うかといった設計も非常に大切ということでしょう。

今回の記事からの学び

  • 車同様、長く暮らす住まいは、初期費用と維持費(燃費)での検討が大切
  • 断熱性能を高めると工事費は高くなるが、維持費にあたる光熱費は安くなる
  • 適切な断熱性能を発揮するためには、気密性能が必要不可欠
  • 建ものの燃費計算は、プロにお願いしないとできない
  • 建もの燃費ナビのシミュレーション精度は高い(誤差5.5%)
  • 冷暖房の運用を間違えると、シミュレーション通りにいかない場合がある
  • エアコンの設定温度があ1度変われば、消費エネルギーは10%変わる
  • 直射日光の影響を考えた屋根や窓の設計が重要

この記事を書いている私、鶴見哲也の自己紹介は、こちらの記事からご覧ください。
TwitterInstagramのフォローもよろしくお願いします。